プロフェッショナルが語る
デザインアプローチ
お客様とともに事業のあるべき姿を描く。こうした業務を一貫して進められるのが社内デザイナーです
デザインの領域が拡がるなか、実際の開発プロジェクトにおいて、デザイナーはどのような仕事をしているのでしょうか。デザイナーは、エンドユーザー視点に立ったニーズの掘り起こしをはじめ、お客様とともに事業のあるべき姿を考えるなど、多方面で活躍しています。ここでは、三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)で、デザイナーとして活躍している米沢みどり氏に、今のデザイン事情やデザイナーの役割などを伺いました。
事業の将来像までお客様と一緒に考えながら提案
米沢氏は、コンセプトメイキング、コンテンツ、Webの画面デザイン、ハードウエア、ユーザビリティーなど幅広い分野を手がけています。最近では、コンセプトメイキングなど、上流工程から携わることが多いと語ります。
「元々は、形のある物のデザインをやっていましたが、最近は“お客様の生活を良くするにはどうしたらよいか”といったコンセプトやソリューションなど、いわば形のないデザインやアイデアを考えることが多くなっています」
顧客がコンセプトを重視するようになった背景には、市場の変化が激しくなっている実状があります。一例として、「デザインアプローチ」手法を用いた次世代空港のコンセプト創出の例をみてみましょう。空港の利用者層も年々変わってきました。海外からの観光客の急増や、国内の高齢化といった変化を受けて、空港会社も単に既存のシステムを改善するだけでなく、その先にある“将来の空港はどうあるべきか”というコンセプトの提案を求めています。
「事業の将来像まで、お客様と一緒になって考えながら提案することが重要ですし、その中でデザインのプロという立場でお手伝いできることがあると思います」(米沢氏)
長期的な将来像を描くうえでは、普段から顧客と一緒に考えることも必要になります。
「一緒に仕事をさせていただいているお客様の場合、例えば2年後にシステム更新が計画されているのであれば、今からこういう事を考えていきませんか、こういう勉強をしていきませんか、といった働きかけをすることで、お客様と一体になって活動する形を作ることができます」
こうした活動は、もちろん営業などとも連携して行います。事業の将来像を顧客と共有することは、プロジェクトの成功や顧客満足の向上につながります。
クライアントの先にいるエンドユーザーに必要なものを考える
開発時におけるデザイナーの代表的な役割として、米沢氏は顧客目線とコンセプトの一貫性の維持を挙げます。
「直接の依頼元だけでなく、その先にいるエンドユーザー、最終的に本当に使う人にとって何が必要かということを常に考えます。例えば、空港のディスプレイシステムの場合、急いでいる人、日本語を理解できない観光客など、様々な人の立場に立って、広い空間の中でどのようなものが見やすいのか、どこに置くのがよいのか、どのように組み合わせれば一番効果があるのか、といったことを考慮して提案します」
アイデアを考える前には何度も現場に足を運んで観察と調査を実施します。そこから様々なユーザー層を想定し、それぞれがどのような気持ちでどのように行動するかを考え、分かりやすい形で提示する、「ユーザーとしての専門知識」が求められます。
大きなプロジェクトになるほど分業化が進み、各担当者が自分のポジションでの最適化を追求することは、ともすれば顧客目線や当初のコンセプトからの逸脱を招く場合もあります。デザイナーは、プロジェクトリーダーとともにこうした事態を防ぐ役割も果たします。
「開発では、決められた期限や予算内でお客様の要望をどう満たすかなど、いろいろなことを考えなければなりません。もちろん、納期やコストも大事ですが、最終的にはシステムを使う人がいて、その人達に満足していただかないと成功とはいえません。デザイナーは、プログラムを組むわけではありませんが、使う人の立場から、“ここは分かりにくいのではないか”とか、“最終的な目的はこうだから、別のソリューションがあるのではないか”といったアドバイスができます」
2020年の東京オリンピックに向けて新たな価値創造を支援
多くの役割を持つメンバーが集まるプロジェクトにかかわることは、デザイナーの成長を促すという側面からもプラスになると米沢氏は語ります。
「デザインアプローチのチームには、デザイナーだけではなく、営業、エンジニア、そしてお客様など様々な役割を持つ多くのメンバーが参画します。みんなで考え、論議することによって新しいアイデアが出てきます。デザイナー同士で業務を進める時とは、異なるスキルやノウハウが必要になりますが、大規模プロジェクトにおいて多くのメンバーと一緒にアイデアを練ることは、デザイナーとしても視野が広がり、良いことだと思います」
こうしたデザインアプローチの組織内への浸透を通して、技術とデザインのセンスを併せ持ったエンジニアや営業が増えることは、より有効なソリューションの提供につながります。
「これから2020年の東京オリンピック開催に向けて、よりコンセプトメイキングが重要になると考えられます。当社の強みは、上流工程からシステム構築までワンストップでソリューションを提供できることです。しかも、インハウス(社内)デザイナーが参画することによって、自社の技術や強みを十分に理解したうえで短期間でコンセプトが作れます。また、コンセプトやレポートを提示するだけでなく、それを実際に製品化するところまで、さらには次世代モデルの開発まで一貫してフォローできます。これからもデザイナーの視点を活かして、様々な分野で実績を積み上げ、お客様に価値あるソリューションを提供していきたいと考えています」
米沢 みどり
三菱電機株式会社に入社後、デザイン研究所で家電機器、情報機器、携帯電話等のプロダクトデザイン、情報機器、デジタルサイネージ等のインターフェースデザイン、デザインアプローチに関する社内教育等に従事。
2002年より三菱電機、およびグループ会社の新事業提案において、デザインアプローチを用いたコンセプト構築などに取り組む。
2013年より三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社にて、航空、通信、金融、IT関連のSI提案業務にデザイナーの立場で参画。
1989年iFデザインアワード、1989年Smau賞、1990年および1992年GOOD DESIGN AWARD、2013年DIGITAL SIGNAGE AWARD 2013 ブロンズ賞、2014年IAUDアウォード2014 銀賞。
千葉大学工学部デザイン学科非常勤講師。
この記事について:
この記事は、情報誌「MELTOPIA」2015年10月号(No.210)に掲載されたものを転載しました。