金融機関における文書管理の動向とシステム事例
2.顧客受入書類統合管理システム事例
(1)導入前の業務と課題
A社では顧客受入書類の登録関連業務を「紙」のままで行っていました。
紙のままで業務を行っていると新たなサービスを提供したくても事務フローの変更が難しく、スピーディに対応することができません。また、用紙代・運送費、書類を扱う要員などの事務作業コストが高いなどの課題もあります。さらに保管についても、過去書類のピックアップ・内容確認のしやすさを重視し、都内に保管倉庫があったために運用管理コストが高いという課題もありました。その上、原紙での扱いは紛失等の顧客情報漏えいリスクや閲覧証跡が残しにくい等のセキュリティ面での脆弱性もありました。
(2)構築システム概要
これら課題を解決すべく、A社はデータ活用型事務へと乗り出します。
新規受入書類は形式点検後にスキャニングし、イメージデータ化を実施。このイメージデータをもとに事務処理を行う運用に転換しました。また書類原本の管理は不動産コストが安価でセキュアな遠隔地倉庫へと切り替えを行い、書類の既存倉庫受入を停止、過去分書類のストックのみの保管としました。後にこの保管済み過去分書類も順次、イメージデータ化を行っています。
また、これまで倉庫から原本を取寄せて行っていた過去書類の確認も、イメージデータ化したことにより、Web検索照会が可能になりました。さらに原本と電子データの紐付けを行い、どの箱に保管されているのか分かるような体系をとりました。
(3)主要機能
構築した主な機能は以下の通りです。
イメージ文書登録
顧客申込書類をスキャニングしイメージデータ化を実施。顧客番号等検索用のキーワード登録においてはイメージデータを同一画面上で見ながらダブルエントリ(一つのイメージデータに対して担当者2人が別々にキーワード入力。2人の入力内容を照合し一致していれば登録、不一致なら再入力)を実施。その後、イメージファイリングシステムに登録されます。
データエントリー
「イメージ文書登録」で作成した書類イメージデータの一部分(名前、住所など)を自動で切り出し、同一画面上で確認しながら入力(ダブルエントリ)を行います。入力データはホストへ登録されます。
印影集中管理システム連携
「イメージ文書登録」で作成した書類イメージデータの一部分(契約者の押印欄、署名欄)を自動で切り出し、印影の濃度調整を行い、印影集中管理システムへ登録します。登録された印影は、照合時にPC端末上に実寸大で表示されます。
倉庫管理(物理管理)システム連携
顧客申込書類は事務センター受付時に50枚一束にまとめ、束ごとにバーコードで「束番号」を管理しています。倉庫発送前に保管箱に複数の束を入れ、「箱番号」と「束番号」の紐付けを行います。この管理番号を倉庫受入時のロケーション管理システムと連携させています。
書類発送・受取管理システム:拡張機能
拡張機能として、事務センターにて発送する申込書類、および営業店にてお客様にお渡しする申込書類の印刷機能を追加しています。ここで印刷される申込書類にはお客様の氏名や住所の他、顧客番号等のバーコードもプレ印字されます。このバーコードを発送時・返送時・登録時に読取ることでステータス管理(回収管理)を行っています。また、このデータを連携させ、一部のエントリを省略する仕組みをとっています。
(4)導入後のメリットと今後の方向性
導入後の効果として、コスト面では書類原本を取り扱う事務作業と定期的な書類棚卸し作業が減ったことで要員費用を削減できました。また保管用スペースの合理化と安価な外部倉庫を活用可能としたことで保管費用を削減することができました。
セキュリティ・リスク面では、閲覧履歴・証跡の把握と管理を可能としたことで社内の牽制効果があり、書類原本移動が減ったため紛失等のリスクも軽減されました。さらには書類原本と電子データの紐付けを確立したことで、所在および貸し出し等の管理体制が強化されました。倉庫からの取寄せ時には箱番号を指定し箱ごと取寄せる運用としたため、外部倉庫での書類確認が不要になりました。
業務効率面では、Web検索照会が可能となったことで情報提供時間が短縮し、顧客サービスが向上しました。また、書類の受入・閲覧・保管等タイムリーな統計情報の取得により、運用改善への有効活用が可能になりました。イメージデータを複製として保管するため被災などによる万一の原本消失時にも情報保全(バックアップ)を確保することが可能となり、結果としてBCP対策につながりました。
追加したプレ印字機能は、返送書類を登録する際にバーコードを認識しその後の事務作業をさらに軽減するといった事務生産性向上を実現しました。また顧客が氏名や住所等の入力を省くことができ、さらなる顧客サービス向上にもつながっています。
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- その他、金融機関でのシステムトピックス
本ページと同等の内容が 公益社団法人日本文書情報マネジメント協会発行
「月刊IM」2013年8月号掲載(2013年7月25日発行)の「ケーススタディ」に掲載されました。