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付加価値を生み出す「e-文書法」対応のポイント
ITインフラの整備に伴い、企業内で日々膨大に発生する情報のデジタル化が加速しています。
しかしこのような中、個人情報が数万件単位で漏洩する事件が相次ぐなど、問題点もクローズアップされています。
とはいえ、情報のデジタル化が企業経営や業務に大きなメリットをもたらすことも事実です。
そこで政府も、これまでは法律によって紙での保存を義務付けていた財務文書などについても、電子保存を容認する規制緩和の動きを加速。
その具体的施策として、平成17年4月には「e-文書法」が施行される予定です。では、「e-文書法」は企業にどのようなインパクトをもたらそうとしているのでしょうか。
今回は付加価値という視点から、「e-文書法」の意義や企業が対応する際のポイントを探ってみましょう。
e-文書法の制定は「e-Japan戦略」の具体的施策
「5年以内(2005年まで)に世界最先端のIT国家を目指す」ことを目標に、政府のIT戦略本部が「e-Japan戦略」を打ち出したのは2001年1月のことです。ERPやSCM、CRMなど、すでに大企業を中心にIT活用の取り組みは本格化していたとはいえ、当時のインターネット普及率は主要国の中で最低レベルでした。また、日本全体として見ると、ITの大きな可能性として期待された産業構造や社会構造の変革に向けた取り組みは大きな遅れをとっていました。そこで「e-Japan戦略」が重点政策分野として定めたのが、(1)超高速ネットワークインフラ整備、(2)電子商取引の促進、(3)電子政府の実現、(4)人材育成の強化、(5)安全性・信頼性の確保です。以来、この方針に基づいたさまざまな取り組みが進められてきました。
当初の目標である2005年を翌年に控えた現在、これらの政策の中で劇的に進んだのが超高速ネットワークインフラの整備です。今年の7月に総務省が発表した「平成16年版情報通信白書」でも、1,500万契約に接近したブロードバンド契約数や100kbps当たり9セントというブロードバンド料金、89.5%に達する携帯電話のインターネット対応率といった数字とともに、「ブロードバンドは着実に普及」し、「ブロードバンドは世界で最も低廉・高速」を実現、「モバイルインターネット利用は世界を大きくリード」している現状が強調されています。
ただし、インフラ整備はIT活用に向けた前提条件に過ぎず、目指すのは、あくまでITを活用した便利な社会の実現です。
そこでIT戦略本部では、明らかになった課題に対する施策なども盛り込みながら、2003年7月にIT活用に向けた政策に重点を置いた「e-Japan戦略Ⅱ」、2004年2月には戦略実現に向けて加速化させるべき5分野を明確にした「e-Japan戦略Ⅱ加速化パッケージ」を策定しました。
この過程で明らかになった方向性の一つが、企業からの要請が高かったと言われる、紙による保存が義務付けられている文書・帳票の電子保存の容認です。これを実現するため加速化パッケージでは、IT規制改革の推進という重点分野の具体的施策の一つとして、「e-文書イニシアティブ」が明記されました。
「法令により民間に保存が義務付けられている財務関係書類、税務関係書類等の文書・帳票のうち、電子的な保存が認められていないものについて、近年の情報技術の進展等を踏まえ、文書・帳票の内容、性格に応じた真実性・可視性等を確保しつつ、原則としてこれらの文書・帳票の電子保存が可能となるようにすることを、統一的な法律(e-文書法)の制定等により行うこととする」という内容です。
e-文書イニシアティブの実現は、IT戦略本部が2004年6月に決定した最新の「e-Japan重点計画-2004」でも、370にも及ぶ具体的施策の一つとして明記されています。また、同時期に公表された「e-文書イニシアティブについて-e-文書法の立案方針-」(内閣官房IT担当室)では、平成17年4月の施行を目指すというスケジュール目標も明示されました。
紙による保存コストは年間3,000億円?
経済界からの財務書類や税務書類の電子化容認に対する要望は、企業のIT化が加速し始めた90年代の半ば頃から顕在化され、これを受けて、98年には「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(電子帳簿保存法)が成立しています。ところが、電子帳簿保存法が対象にしていたのは、「自己が一貫して電子計算機を使用して作成する帳簿書類」。
つまり電子保存が認められたのは、最初からコンピュータで作成した帳簿書類だけで、紙で受け取る見積書や契約申込書、請求書などは電子保存が認められていませんでした。イメージスキャナを利用して手書きの帳簿書類を電子化する技術は確立されていたものの、税務調査などで、電子化されたデータは改ざんされた痕跡を検知できないというのが大きな理由でした。
その後、こうした課題を解決する手段として、PKI(Public Key Infrastructure)をベースとした電子署名やタイムスタンプと呼ばれる技術が確立。2001年4月には「電子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法)により、電子署名であっても手書きの署名や押印と同等の法的効力が認められるなど、法的な整備も進みました。こうした流れにより、業界団体などが中心となって、電子保存範囲の拡大に対する政府への要望を強めていきました。
なかでも、e-文書法制定の動きを具体化させるのに大きな影響を与えたと言われているのが、社団法人日本経済団体連合会(経団連)の提言や意見です。経団連では、電子帳簿法の施行以前から税務書類の電子化容認を継続的に政府に要請。e-Japan戦略に対しても、経済界を代表して積極的な提言を続けてきました。税務書類全般の電子化についての具体的な提案については、2003年5月から検討を開始。そして、2004年3月には、その結果を「税務書類の電子保存に関する報告書」とともに、「税務書類の電子保存範囲の拡大を改めて要望する」という意見書として提出しています。
ここで大きな注目を集めたのが、税務書類の紙による保存コストが経済界全体で年間約3,000億円にのぼるという試算結果です。保存コストとは、「倉庫代などの保管コスト、書類等の発生場所から倉庫までの運搬コスト、書類等の廃棄コスト、税務調査の便宜等のために保管されている書類の一覧等を印刷するコスト、これら取扱いのための人件費」を指しています。また報告書は、紙による保存コストと電子保存で必要になる新たなシステム投資や運用コストも試算。電子保存が容認されれば、現状の保存コストを大幅に削減できると指摘しています。
紙による保存が義務付けられていることで、企業の経営活動や業務の効率化が著しく阻害されていること、また、改ざんの検知なども含めて電子保存の技術が確立されたことなどの背景から、原則すべての電子保存を容認するのが、e-文書法の制定を前提にしたe-文書イニシアティブです。位置付けはe-Japan戦略Ⅱを加速させる施策の一つで、大きな狙いは企業の文書保存に関わる負担の軽減を図ることにあります。
電子保存の基本要件は真実性と可視性の確保
現時点で、具体的な法案内容は明らかになっていないe-文書法ですが、立案の基本的な考え方や電子保存で求める主な要件などは、すでに示されています。簡単に紹介しておきましょう。
まず、e-文書法は立案に当たり通則法方式を採用する方針が明確になっています。通則法方式とは、関係するすべての法律を個別に改正しなくても、立法目的が実現できる方式。例えば、e-文書法に関連する法律は251本に及びますが、これらを個別に改正して対応していたのでは、当初の目的が非常にわかりにくいものになってしまいます。そこで通則法方式を採用すれば、e-文書法に定めた事項のみで電子保存が容認されるというわけです。通則法で対応しきれない場合には、整備法と呼ばれる法律を整備し対応する予定です。
またe-文書法は、すでに紹介したとおり、紙による保存が義務付けられている文書について、原則すべての電子保存を容認するもので、電子保存に当たっては、真実性と可視性の確保が求められます。ただし、文書の内容や性格により、改ざん防止のための要件などは異なることが予想できます。そこで電子保存の方法については、主務省令で具体的に定めることになっています。
項目 | 本数 | 項目 | 本数 |
---|---|---|---|
内閣府 | 3 | 文部科学省 | 12 |
警察庁 | 11 | 厚生労働省 | 67 |
金融庁 | 28 | 農林水産省 | 31 |
総務省 | 10 | 経済産業省 | 43 |
法務省 | 21 | 国土交通省 | 41 |
外務省 | 2 | 環境省 | 11 |
財務省 | 16 | 合計(重複なし合計) | 296(251) |
(※)法律の本数は今後の精査・調整等により変動があり得る。
出典:内閣官房IT担当室『e-文書イニシアティブについて-e-文書法の立案方針』
例えば企業からの要望が強い税務関係書類。e-文書法の対象になるのは相手方から受け取った見積書や注文書、契約申込書、送り状、納品書、検収書、請求書など。適正公平な課税を確保するという観点から、決算関係書類や帳簿、個々の取引の実態や金銭の授受を証明する契約書・領収書は対象外となり、引き続き紙による保存を求めることになっています(3万円未満の領収書や電子公証制度による私署証書の宣誓認証などを受けた文書等は電子保存可能)。さらに、電子保存で求められる要件については、税制調査会が第14回総会(2004年6月22日)資料として公表している「税務関係書類の電子保存」に、次のように明記されています。
保存要件
- 真実性を確保するための要件
- 一定水準の解像度・カラー画像(紙と同程度の小さな文字、色を再現)、電子署名(偽造防止不能な電子署名を付して改ざんを防止)、タイムスタンプの付与(イメージ化した時刻を第三者が証明)、ヴァージョン管理(改ざん等の内容を事後に確認)、文書の作成・取得から一定期間内のイメージ化(改ざん可能期間を制限)等の要件。
- 可視性を確保するための要件
- 税務調査に際して、紙の文書と同様の効率的な調査が行えるようにするため、重要な項目の検索機能、ディスプレイ、プリンター等の備付け等の要件。
- 税務署長の事前承認制度
- 電子公証制度:
- 電子署名できる資格を持つ指定公証人がいる公証人役場に、各企業がイメージデータで管理したい契約書や領収書が発生した取引に直接関与した人または決裁者が、元になる紙文書とイメージ化されたデータを持ち込み、指定公証人の前で該当の紙文書を間違いなくイメージデータとして作成したものであることを宣誓供述することによって指定公証人が該当のイメージデータに電子署名するという制度。
従来業務を見直し付加価値を生み出す
e-文書法が狙いとする文書保存に関わる負担の軽減。倉庫などの物理的スペースに要するコストや運搬コスト、人件費の削減が、特に膨大な量の紙文書が発生する大企業にとって大きな効果であることは間違いありません。ところが多くの文書は、文書の受付から審査、承認といった一連の業務と密接な関わりを持っています。
文書の電子化は、検索や参照といった利便性を高めるだけではなく、ワークフローを利用した業務処理の実現につながります。今回のエキスパートインタビューにご登場いただいた日本画像情報マネジメント協会の今別府昭夫氏が指摘するように、企業にとっては、その文書に関わる業務効率の向上、さらには、顧客に対する付加価値を提供できるという効果が、非常に大きな意味を持ちます。
こうした効果を引き出すには、単に既存の紙文書を電子データに置き換えるという発想だけでは不十分です。重要なのは、承認プロセスといった従来の業務も見直したうえで、付加価値を高めるという視点からワークフローを整備できるかということです。電子保存システムを導入したから効果につながるのではなく、導入した電子保存システムを運用する中で、いかに効果を高めるかという考え方が求められると言えるでしょう。
技術的課題の解決、法律の整備はITを活用するうえで不可欠な条件ですが、IT導入の効果を最大限に引き出せるかどうかは、導入後の運用が左右します。e-文書法の施行で可能になる文書の電子保存についても例外ではありません。e-文書法への対応では、電子文書の取り扱いや管理に対する基本的な考え方、個人情報を含んだ文書の漏洩を防止できるセキュリティのあり方、責任体制など、運用までを視野に入れた体制やルールの確立が重要になります。技術的な実現手段だけでなく、企業としての対応が求められるということです。
また、実際の運用を考えると、専門的なスキルを持った人材育成も企業にとっては重要な課題になります。効果的な運用には、作成・取得から配布と活用、保存・処分といった文書情報のライフサイクル全体についての管理が必要ですが、これを最適化するには文書情報管理についての専門的な知識と豊富な実務経験が求められるためです。
こうした企業のニーズに応えるために、社団法人日本画像情報マネジメント協会(JⅡMA)が認定している資格に「文書情報管理士」があります。文書情報管理士資格制度は、従来からあった「マイクロ写真士」が発展したもので、2001年から検定試験が実施されています。検定で要求されるのは、コンピュータや画像データに関する知識、法律の知識、運用スキル、応用的なコンサルティング能力といった総合的に文書情報をマネジメントする技術と知識です。
現在は、能力レベルにより上級、1級、2級という3つの資格があり、毎年1回検定試験が実施されています。技術革新や法整備といった環境変化に対応しながら、実務に即した効果的な文書情報マネジメントシステムの構築・運用が求められる中、こうした資格を取得した人材の重要性が、今後さらに高まっていくことは間違いないでしょう。
e-文書法は、文書の電子保存を容認する法律であり、電子保存を義務付ける法律ではありません。したがって、紙による保存から電子保存に移行するかどうかという判断は各企業に委ねられています。とはいえ、文書情報管理の必要性は、利害関係者に対する透明性と説明責任、リスクマネジメントの支援、不測の事態に対応できる最重要情報の保全といった視点からも確実に高まっており、その実現のために電子保存が有効な手段になることは事実です。
また電子保存は、単に記録媒体の変化ではなく、業務や経営にとっての付加価値を生み出す可能性も秘めています。経営という視点から必要性や効果を見極め、IT環境や運用体制を整備する。企業に問われているのはe-文書法という法律への対応方法ではなく、自社にとって最適な文書情報管理システムの構築・運用のあり方だと言えるかもしれません。
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- この記事について:
- この記事は、情報誌「MELTOPIA」2004年8月号(No.97)に掲載されたものを転載しました。
(社)日本画像情報マネジメント協会法務委員会委員長の今別府昭夫氏への取材をベースに構成しました。