金融機関における文書管理の動向とシステム事例
1.金融機関における文書管理
(1)現状と課題
金融機関の業務は煩雑な手続きが多く、署名と押印を必要とする紙文書により執り行われます。
取引伝票以外にも口座開設申込書や契約書類などの証書類は、毎日大量に発生しています。このため、収納場所の確保や管理が日々必要となります。またこれらの書類は個人情報を伴うため、セキュリティを考慮した厳重な保管が重要となりますが、一方で契約者等からの問い合わせ時にはすぐ対応できるよう、いつでも閲覧できるような管理体制をとることが必要です。
金融庁からコンプライアンス遵守の厳しい指導があるものの、このような文書の運用・体制整備は容易ではありません。
しかしながら、事務・受電業務を集約化し本部人員を削減する動きがあり、地方銀行等のバックオフィスの人員は減少傾向にあります。一方で、個人情報保護はますます厳格化され、管理強化を求められています。このため、書類を受入れる営業店負荷は高まっていると考えられます。
その中で各種業法の改正等が行われると、それに付随する文書量(金融商品販売法ではリスク説明等に関する書類、貸金業法では収入証明書など)が短期間で増加するため、それらの管理に対応できる体制も整えなくてはなりません。
文書を管理するためには、文書管理ルールを設定し、台帳整備をすることが必要となります。A社をはじめ、弊社が話しを聞く範囲からいうと、メガバンクや大手生損保では管理運用がほぼ行き渡っていますが、地銀・証券・ノンバンク等では部分的にしかできていないようです。また現状として、文書を電子化して管理している割合は低く、多くが手作業管理を行っています。また文書保管場所については半数程度は部店単位であり、残り半数弱が本部もしくは事務センター、ごく一部のネット銀やノンバンクで外部委託が見られる程度です。
このような重要文書の管理において、金融各社が危惧していることは、書類等の「棚卸し作業」であり、その結果としての「紛失・誤廃棄問題」です。これはマイクロフィルムの誤廃棄により度々ニュースとなっていることからもその不安が理解できます。
(2)BCPへの取組み
2011年3月に発生した東日本大震災では、営業店保管資料が被害を受けたケースがあります。
震災の被災範囲が広く、事業継続に深刻な影響が出たところもあり、事業継続計画(BCP)の見直しも課題となっています。BCP対策の中に文書管理対策を設け、ドキュメントの安全性・保管の仕組みの見直しを行い、システム化を進める必要性があるとの認識は高まっています。
BCP対応としては当然のことながらシステムの多拠点冗長化計画の策定(バックアップサイトによるディザスタリカバリー)や、データの遠隔地バックアップ/レプリケーション(複製)も検討されていますが、業務書類・原本の保護を喫緊の課題とする企業も多くあります。
(3)文書電子化を取り巻く動向
金融機関の文書電子化において重要となるポイントは以下の4つがあると考えられます。
- 登録、承認プロセスの遵守・尊守
- アクセス制御や暗号化(流出防止等)
- 閲覧など権限制限、操作履歴の管理(ログ保管)
- 電子化データのバックアップ
これらの中でも金融機関が他業種に比べてとくに重視していることの一つはログの管理です。原本書類の保管中に発生したログは必ず、保管期限が過ぎ原本を廃棄するまでの間保存しています。
また顧客申込書類には、金融機関記入欄として受付、点検、登録、再監 (※)、承認、保管等々があります。これは申込の承認プロセスとなっており、プロセス上にて各担当者に承認されると承認印が押される仕組みになっています。電子化後のイメージ文書においてはこの承認印を電子的にどう管理するかが重要です。つまり、承認プロセスを遵守していることを必ず電子記録として残さなければなりません。
一方、文書の電子保存を認めたe-文書法の対応についても検討を行っているところが多くありますが、電子化ドキュメントのみを証拠呈示した際の裁判上の効果について十分な判例は出ていません。そのため、電子化後も原本を保管しているケースが多くあります。結果、保管スペースを圧迫している問題は根本的には解決していません。
(※)再鑑:担当者が入力・登録した内容を別の担当者(または上位者)が誤りがないか確認をすること。
- 金融機関における文書管理
- 顧客受入書類統合管理システム事例
- その他、金融機関でのシステムトピックス
本ページと同等の内容が 公益社団法人日本文書情報マネジメント協会発行
「月刊IM」2013年8月号掲載(2013年7月25日発行)の「ケーススタディ」に掲載されました。